大阪地方裁判所 平成8年(わ)395号 判決 1996年11月18日
本店所在地
大阪府東大阪市渋川町二丁目一〇番二〇号
株式会社
有明製作所
右代表者代表取締役
川畑春夫
本籍
大阪市生野区巽北一丁目五一三番地の一
住居
同 市生野区巽東四丁目一番一六号
会社役員
川畑春夫
昭和八年四月一二日生
本籍
大阪市生野区巽北一丁目五一三番地の一
住居
同 市生野区巽東四丁目一番一六号
会社役員
川畑芳子
昭和一三年三月二三日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官酒井徳矢出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人株式会社有明製作所を罰金一一〇〇万円に、被告人川畑春夫及び被告人川畑芳子をそれぞれ懲役一〇月に処する。
被告人川畑春夫及び被告人川畑芳子に対し、この裁判確定の日から三年間それぞれの刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人株式会社有明製作所(以下「被告会社」という。)は、大阪府東大阪市渋川町二丁目一〇番二〇号に本店を置き、陳列金物の製造販売業を営む株式会社(平成四年一一月一〇日までの資本の額は五〇〇万円、同日より二〇〇〇万円)であり、被告人川畑春夫(以下「被告人春夫」という。)は、被告会社の代表取締役として被告会社の業務全般を統括している者、被告人川畑芳子(以下「被告人芳子」という。)は、被告会社の経理責任者をしている者であるが、被告人春夫及び同芳子は、同人らから依頼を受けて被告会社の法人税確定申告手続に関与した道下貞彦(以下「道下」という。)、仲野正信(以下「仲野」という。)及び道下、仲野の両名から依頼を受けて被告会社の架空取引先となった岡本末隆(以下「岡本」という。)と共謀の上、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと考え
第一 平成三年九月一日から平成四年八月三一日までの事業年度における実際の所得金額が九〇二七万六〇二一円(別紙一の1修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額(課税留保金に対する法人税額を除く。)が三二八四万七四〇〇円(別紙一の2税額計算書参照)であったにもかかわらず、架空の材料仕入を計上するなどの行為により、その所得の一部を秘匿した上、同年一〇月二九日、大阪府東大阪市永和二丁目三番八号所在の所轄東大阪税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が三四三六万四八八三円(別紙一の1修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額(課税留保金に対する法人税額三万〇二〇〇円を除く。)が一一八八万〇四〇〇円(別紙一の2税額計算書参照)である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙一の2税額計算書記載のとおり、右事業年度の法人税二〇九六万七〇〇〇円を免れ
第二 平成四年九月一日から平成五年八月三一日までの事業年度における実際の所得金額が八五一九万八二〇二円(別紙二の1修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が三〇九八万四四〇〇円(別紙二の2税額計算書参照)であったにもかかわらず、前同様の不正の行為により、その所得の一部を秘匿した上、同年一〇月二七日、前記東大阪税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が三一一〇万一二四八円(別紙二の1修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が一〇六九万八〇〇〇円(別紙二の2税額計算書参照)である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙二の2税額計算書記載のとおり、右事業年度の法人税二〇二八万六四〇〇円を免れ
第三 平成五年九月一日から平成六年八月三一日までの事業年度における実際の所得金額が八二一八万九三七七円(別紙三の1修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が二九九二万二二〇〇円(別紙三の2税額計算書参照)であったにもかかわらず、前同様の不正の行為により、その所得の一部を秘匿した上、同年一〇月二八日、前記東大阪税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が三四八四万六四五九円(別紙三の1修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が一二一六万八六〇〇円(別紙三の2税額計算書参照)である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙三の2税額計算書記載のとおり、右事業年度の法人税一七七五万三六〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
(注)括弧内の漢数字は、証拠等関係カード検察官請求分記載の証拠番号を示す。
判示事実全部について
一 被告人川畑春夫及び同川畑芳子の当公判廷における各供述
一 被告人川畑春夫〔三二ないし三五、三七〕及び同川畑芳子〔四一ないし四四、四六ないし四八〕の各検察官調書
一 分離前の相被告人道下貞彦、同仲野正信及び同岡本末隆の当公判廷における各供述
一 道下貞彦〔四九ないし五三〕、仲野正信〔五五ないし五七〕、岡本末隆〔五九、六一〕及び卒田正〔八〕の各検察官調書
一 査察官調査書〔一五、二三、二四〕
一 「所轄税務署の所在地について」と題する書面〔七〕
一 法人登記簿謄本〔二八〕
一 閉鎖された役員欄用紙謄本〔二九、三〇〕
判示第一の事実について
一 証明書〔四〕
一 査察官調査書〔九、一一、一二、一六、一八、二五、二六〕
一 大蔵事務官作成の報告書謄本〔五二〇〕
判示第二及び第三の各事実について
一 査察官調査書〔一〇、一七、一九、二〇、二二、二七〕
判示第二の事実について
一 証明書〔五〕
一 査察官調査書〔一三〕
判示第三の事実について
一 証明書〔六〕
一 査察官報告書謄本〔五〇一〕
一 査察官調査書〔一四、二一〕
(法令の適用)
被告人両名の判示各所為はいずれも平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文により同法による改正前の刑法(以下「旧刑法」という。)六五条一項、六〇条、法人税法一五九条一項に該当するところ、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は旧刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人両名をいずれも懲役一〇月に処し、情状により、被告人両名に対し同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間それぞれその刑の執行を猶予することとする。
さらに、被告人両名の判示各所為はいずれも被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、判示各所為につきそれぞれ法人税法一六四条一項により同法一五九条一項所定の罰金刑に処すべきところ、以上は旧刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告会社を罰金一一〇〇万円に処することとする。
(量刑の理由)
本件は、被告会社の代表取締役として被告会社の業務全般を統括している被告人春夫及び被告会社の経理責任者である被告人芳子が、道下、仲野及び岡本と共謀の上、被告会社の三事業年度の法人税合計約五九〇〇万円をほ脱したという事案である。
そこで、まず犯行態様についてみるに、本件は、ダミー会社であるミツワ商事及びスエタカ企画からの架空仕入を計上する等の方法によって敢行されたものであるところ、右仕入を仮装するため、仕入代金について内容虚偽の請求書、領収書を作成した上、代金額に見合う手形や小切手を振り出し、これを銀行の預金口座において決済して現実に仕入代金が支払われたかのように装うなどしたほか、同和団体が税務署に圧力をかけられるとの認識から、脱税の発覚、摘発を免れるため、本件の確定申告書を西成同友会を通じて提出するなどしており、犯行は計画的で巧妙なものである。
また、被告人両名の本件犯行への関与の態様についてみても、まず、被告人春夫は、被告会社の代表取締役として業務全般を統括する立場にある者であって、道下らから架空仕入の計上による脱税方法を提案された際に、脱税であることを十分認識しつつ、被告人芳子の勧めもあって、道下らに脱税を依頼したのであり、また、本件確定申告の直前には、脱税額について道下らから説明を受けて了解していたのであるから、被告人春夫は本件犯行において重要な役割を果たしたものと評価できる。
また、被告人芳子は、道下らから架空仕入の計上による脱税方法を提案された際、右提案に強い関心を示し、被告人春夫に右提案に従うよう勧め、被告人春夫の同意を得て道下らに脱税の依頼をしたのであり、脱税工作においても、道下らとの詳細な打合せの上、道下が作成した架空仕入代金の請求書、領収書と引き換えに、手形や小切手を振り出して道下に交付し、道下がこれらを決済した後に、脱税報酬を差し引いた金額の返還を受け、これを簿外資金として管理をするなど、脱税工作の重要な部分を担当していたのであるから、本件犯行において重要な役割を果たしたものと評価できる。
さらに、被告人芳子は、本件以前から、有限会社有明研磨工業所の業務に関して脱税を行い、被告人春夫もそれを容認していたのであり、その脱税が税務調査によって二度にわたり発覚したにもかかわらず、その直後に道下らの提案による脱税を開始したのであるから、本件犯行は常習的犯行の一環であるといえる。
被告人両名の本件犯行の動機も、被告会社が経営難に陥った場合や設備投資の場合に備えて資金を蓄えておきたかったというものであり、かかる願望は事業者であれば多かれ少なかれ持つものであって被告人両名についてのみ特に斟酌すべきものではない。
以上のとおり、本件脱税の規模、態様、被告人両名の地位及び本件犯行への関与の態様等からすれば、被告会社及び被告人両名の刑事責任は重大である。
しかしながら、本件の脱税方法は、道下らが提案したものであること、被告人両名はミツワ商事からの架空仕入を中止して脱税を止める旨申し入れたが、道下から、このまま申告すれば利益が膨らみすぎて却って従前の脱税が発覚しかねないなどと言われ、新たにスエタカ企画からの架空仕入の計上による脱税を提案されて、脱税を継続することになったという経緯もあること、被告会社において、法人税を修正申告の上、法人税の本税、重加算税及び延滞税の全額を納付していること、被告会社は、本件犯行に関して、道下らに対し、合計三一九一万円余りもの脱税報酬を支払い、その返還の目処がなく、事実上経済的損失を被っていること、被告人両名は事実を素直に認めて反省し、被告会社の経理体制の改善に努めていること、被告人両名には前科前歴がないことなど量刑上有利に斟酌すべき事情も存する。
そこで、以上の事情を綜合して考慮した結果、被告会社を主文の罰金刑に、被告人両名をそれぞれ主文の懲役刑に処した上、被告人両名の懲役刑についてはいずれもその刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中正人 裁判官 伊元啓 裁判官 渡部市郎)
別紙一の1
修正損益計算書
<省略>
<省略>
別紙一の2
税額計算書
<省略>
別紙二の1
修正損益計算書
<省略>
<省略>
別紙二の2
税額計算書
<省略>
別紙三の1
修正損益計算書
<省略>
<省略>
別紙三の2
税額計算書
<省略>